企業出版の最終目的は「経営課題の解決」に収れんする

何のために企業出版で本を出すのか――この目的を決めるのが企業出版のスタートである、本ブログでさんざんお伝えしてきたことです。

なぜ現役の書籍ライターの私が企業出版の目的にこだわるのかといえば、手がける書籍の目的がわからなければ著者に何を取材し、誰に何を届けるのかが明確にならないからです。

目的を見失った本づくり、あるいはそもそも目的のない本づくりほど難しいことはありません。

目的なき企業出版の本づくりは迷走する

事例のひとつとしては、過去にこのような案件がありました。

著者はある製造業の二代目社長で、数年前には父親で先代の創業者が本を出版されていました。その先代の書籍を受けた第二弾として、二代目社長が本を出すことになったのです。

この出版の流れ自体はなんら不都合はありません。

問題は、二代目社長の企業出版に対する目的が欠如していたことでした。

では、なぜ二代目社長が本を出したのかといえば、同社の出版計画で1冊目は創業者、2冊目は二代目が出すと決まっていたからです。

二代目にとっては自分に出番が回ってきただけのことです。そのため書籍の目的やターゲット、内容、構成などについての主体的な意見を持っていませんでした。

ともあれ取材を進めることになったわけですが、著者の口から出てくるのは先代に対する思いばかり。それもよい思いではありません。

親子間の事業承継でよくあるパターンですが、創業者は高度成長時代にカリスマ的な魅力と手腕で会社を興し、事業規模を拡大した成功体験を持つ一方、二代目は業界が斜陽産業になったタイミングで会社を引き継いだこともあって、とにかく二代目の先代に対する愚痴が止まらないのです。

それでも取材時に明確な出版の目的があれば、軸を持ったインタビューは可能です。ですが肝心の著者自身に「こんな本にしたい」という主体的な思いがなかったことから取材は迷走しました。

最終的には書籍の方向性を見極めてタイトル候補と構成のたたき台をつくり、取材の進み方の軌道修正をはかって事なきを得ましたが、ようするに目的なき本づくりは多くの場合、迷走しやすいのです。

企業出版の目的は経営課題と同義である

では企業出版の目的とは具体的に何なのか。

企業出版、成功への道――出版の目的②」でも触れたように、一般には次のとおりです。

・自身や自社のブランディング
・ビジネスモデルや自社の強みの差別化・アピール
・業績や売り上げアップ
・集客
・リクルート
・業界内でのポジションアップ
etc……

これらの目的を集約してひと言で表すと、各企業が個別に抱く経営課題の解決にほかなりません。

今自社はどのような経営課題を抱えていて、それをどうやって解決したいのか。その課題意識と対策への意欲があれば、企業出版に取り組むファーストステップはクリアです。

たとえば業界内での自社の立ち位置に課題があれば、企業出版の目的は自社のブランディングになるでしょう。そこで自社のビジネスノウハウや強み、著者の経験などを加味したコンテンツを軸に書籍づくりを進めていくことになります。

企業出版は一方通行のメディアではない

ただし強調したいのは、著者の独りよがりの本をつくるのが企業出版ではないということ。

経営課題の解決につながるコンテンツが発信者の一方的な思いから抜け出せず、読者が求めるものと乖離しているのであれば、打ち出し方や内容を見直したほうがよいかもしれません。

企業出版は著者からマーケットへの一方的な情報発信手段ではありません。著者のノウハウと読者のニーズを結びつけ、最終的に読者が求める内容を届けるのが企業出版なのです。

そして読者が求めるコンテンツをつくり上げることができれば、企業出版の目的である経営課題の解決に必ずやつながっていくことでしょう。

(関連記事)
企業出版、成功への道――出版の目的①
企業出版、成功への道――出版の目的②
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